社会起業特有の「インパクト評価」は、悩みが尽きません。目的設定、評価項目設定、ロジックモデル作成などなど。やっているうちに、どうしても独りよがりになる嫌いがあります。
この本は、自然実験と呼ばれる手法を紹介すると共に、環境を整えていくことの重要性を訴えており、共感することが多いです。政策評価にも使うことの可能な手法なので、「インパクト評価」にも応用できます。
「中高生からでも十分に読み進められる入門書」と著者があとがきに記すように、数式が出てこない、入門書ですが、読み応えはあります。
グロービスの定量分析クラス受講終了後、社会と数字の関係性をさらに考えたい方にもお勧めの一冊です。
■自然実験について
王道はランダム化比較試験(RCT, Randomized Controlled Test)です。これには、十分な量と質のデータ、そのために必要な人とカネが必要です。
生憎、ソーシャルベンチャーでRCTを実施するリソースを十分に持っているところは一握りです。
そこで、ランダム化比較試験が使えない際に、自然実験という手法があることを紹介してくれています。
自然実験とは、「まるで実験が起こったかのような状況を上手く利用する」ことです。
数式を使わないでも行える3つの自然実験が紹介されています。境界線を使ってみる、RDデザイン。階段状の変化を使う、集積分析。複数期間のデータを使う、パネル・データ分析。
具体例として、RDデザインでは、医療費の自己負担額と外来患者数の関係を。集積分析では、自動車燃費規制と自動車メーカーの対応を。パネル・データ分析では、所得税と移民の関係性を上げています。
ほうほう、なるほど、なるほど、社会を科学的に考えるって、こういうことだよね、という納得感があります。
利用できる「状況」が必要ではありますが、評価手法の考え方として幅が出ます。
■評価をしやすい環境を整える
加えて、評価をしやすくするためには、専門家との連携と、データの開放が重要だという点を挙げています。
専門家との連携は、あまり異論は出ないかと思います
一方、データの開放は、確かに、個人情報の保護や機密の保持という点で異論はあると思います。
しかし、データの開放をすることにより、上述の自然実験も行いやすくなりますし、何かをした結果と、何かをしなかった結果の比較も容易になります。
社会を、なんとなくではなく、科学的に進歩させていくうえで、データが正しく開放されるということに意味がある。この辺りは、インパクト評価を推し進める団体から世にもっと言ってもらってもいいかな、アドボカシーをするに足る意味ある営みと感じました。
伊藤 公一朗 著