「being」~経営教育の本流へ~

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
■経営教育の総本山の新しい方向性

ハーバード・ビジネス・スクール(以下「HBS」)というビジネス教育の総本山のようなところが、開校100周年を契機に、2010年以降ドラスティックな、経営教育改革を行っている。

HBS竹内教授は監修した本の中で

 これまで「ハーバード」という名称がタイトルに載った本は何十冊と出版されているが、それらは辛らつな言い方をすると、すでに「賞味期限」が過ぎているものである。これまでの本は、HBSが100周年を契機に行った深い反省について触れていない。

p.280 『ハーバードはなぜ日本の東北で学ぶのか』山崎 繭加 (著), 竹内 弘高 (監修)

と記している。

経営教育の総本山が舵をきれば、他の多くも追随していくだろう。

そして、その舵を切る先は、

 ビジネススクールがリーダーやアントレプレナーを育成したいと考えるのであれば、どのような事実、フレームワーク、理論を教えるか(”knowing”)について再検討する必要がある。また同時に、カリキュラムのバランスを見直して、経営の実践の肝となるスキル、能力、技術の開発(”doing”)、そして経営者の世界観やプロフェショナルのアイデンティティを形成する価値観、態度、信念(”being”)により焦点を当てるべきである。

(略)

「自分が何者であるかを知る(being)教育」を行っていかなければならない、という結論である

p.26-27 同上

この部分を読んだとき、「HBS、お前もか?」という気持ちになった。

ようやく、beingが真ん中に来たのだ。2010年になって。

■古くから語られてきた being

このbeingは、新しい話であるようでいて、極めて古い存在だ。1989年、約30年前に出版されたベストセラーの中で、既に語られているのだ。そう、全世界で1000万部売れたと言われる『7つの習慣』で、本文冒頭に書かれているのは何か?

インサイド・アウト(内から外へ)

正しい生き方なくして真の成功はあり得ない

そして、同書の最後も、こう締めくくられる

 再びインサイド・アウト

明らかに、『7つの習慣』という本は、インサイド・アウトを芯においている。その方法論が各章で語られる「7つの習慣」なのだ。

インサイド・アウトとは、何か?同書の中では、

真の成功:優れた人格を持つこと
表面的な成功:才能などに対する社会的評価

と定義付けられている。

まさに、beingというインサイドの大切さが語られているのだ。

■beingは、当たり前になってきた

『7つの習慣』が最初に書かれた1989年当時は、日本はバブル真っ盛り。確かに、beingがおざなりにされていた感覚はあるが、世界は大きな出来事を経て、beingを受け容れ始めている。

アメリカでは2001年の9.11同時多発テロや2008年リーマンショック、日本ではバブル崩壊からの失われた20年や東日本大震災を経て、新たな価値観が生まれ始めているように思えている。

日本最大規模のビジネススクールとなったグロービス経営大学院では、2006年の開学当初から、リーダーとしての志を大切にしてきている。(ニュースリリース:グロービス「経営大学院」認可答申を受け 来春発足へ~日本初、通学型の株式会社立経営大学院を東京・大阪にて開学~

他にも、2010年には、サイモン・シネックのTEDexの有名な動画、「優れたリーダーはどうやって行動を促すか」。1000万回以上再生されている。この動画の中で、大脳の構造と類似的に、中心部にWhyを置き、同心円状にHow、Whatを置いている。動画の中では、Whyがさしているものは語られているが、HowやWhatについて語る時間が惜しかったのだろう、語られていないので、How、Whatについては、私が記した。

Why:何のために? 何を信じているのか? その組織の存在する理由は何か?
How:どのように、Whyを実現するか?
What:Howを実現するためのリソース。何を持っているか?何を備えているか?

行動をうながすリーダーは、必ずインサイドにあるWhyからスタートして、アウトにあるHowやWhatを備えている。語るのは、HowやWhatではなく、Whyなのだ。そして、ライト兄弟のように、リソースから考えるのではなく、夢から考えるのだ。迂遠のようでいて、成功への王道なのだ。

冒頭で紹介した『ハーバードはなぜ日本の東北で学ぶのか』でもとりあげられているGRAのCEOである岩佐大輝が、脱リソース論として、以下のように書いている。

 高いビジョンや理念があるなら、何かしら最初の一歩を踏み出すといい。どこの企業でも「これをやりたい」と思っても、「そのリソースをどこから持ってくるのか」とかリソース論で終わってしまう。そうではなくて、ビジョンさえあれば、リソースはなくてもできることはたくさんある。順番は、ビジョン→リソース→実行じゃない。ビジョン→実行→リソースであることを忘れてはいけないと思うんです。

http://globis.jp/article/3697

こうしたインサイド・アウトの考え方は、HBS学生には新鮮でパラダイムシフトを起こしている。

 それまで自分たちが当たり前に考えていた、業界構造がこうで、コスト構造がこうだから、海外に行くとか製品を増やすというoutside-inの(外から中へ:市場や競合などを考えたうえで自社の戦略を考える)発想ではなくて、inside-outの(中から外へ:強い想いがあってそれに導かれて事業が展開される)戦略なんだということが、初めて分かりました。HBSの学生にしたら、今まで考えたことも出会ったこともない考え方・すごくびっくりしていました。企業戦略や株式会社に対する考え方にパラダイムシフトが起きました。

はじめに『ハーバードはなぜ日本の東北で学ぶのか』山崎 繭加 (著)

高いビジョンや理念から始めれば、うまくいく。逆に、リソースから考えると、身体が止まる、状況に振り回される。

■beingを養うと、道が開ける

私自身、近頃、ベンチャー経営者や、社会的活動を行うリーダーの方々とお話しする機会が増えた。社長やリーダーは、他人には話せない悩みを多く抱えている。至って普通のことだ。誰もが解決できない矛盾に直面するのだから。かと言って、悩みを社長やリーダーが抱えたままだと、その人が不機嫌になり、周囲も不機嫌になる。不機嫌になれば人間はパフォーマンスが落ちる。実際落ちている場面はよくみかける。

私は、お話の中で、必ず、その方のビジョンや夢、志を語っていただくようにしている。もちろん、相手の方が嫌がれば、立ち入って聞くことはない。しかし、多くの方は語っていただける。すると、そこに道が開けてくる。ちょっとした会話でも、大きなインパクトがある。

こうしたリーダーにコーチングという関係で継続的に関わることもある。今まで、何人もに話を聞いてきて答えが出なかったのに、という言葉と共に、たった1回のセッションで、解決することがよくある。繰り返しセッションで語っているうちに、beingが養われ、芯が確かになっていく。すると、難局でも迷わず、力強く前に進んで行くようになる。

beingを養うことで、自然と経営の道が開けていくのだ。

迷った時は、HBSも注目し始めたbeingに目を向けてみてほしい。

happy child dreams of traveling and playing with an airplane pilot aviator in outdoor in the summer

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする