日本語では社会関係資本と訳されるソーシャル・キャピタルと人間の営みのパフォーマンスについて書かれた本です。様々な参照先や、興味を持った人が読むべき次の本も紹介されていて、入門書として重宝できます。
お薦めしたい方は、社会起業家、地域活性化、プロボノワーカー、健康寿命向上に向けた福祉のあり方、教育関係者、インパクト評価、定性的な事象を統計に落とし込む事例、経済格差の悪影響に興味のある方々で、幅広いです。
筆者は、ソーシャル・キャピタルを「心の外部性を伴った信頼・規範・ネットワーク」と定義しています。ちなみに、外部性とは、経済学の言葉で、外部経済とか外部不経済とかとして使われます。わかりやすいのは、工場の生産活動の結果、思わぬ副作用として公害を生むという外部不経済です。「心の外部性を伴った」とは、金銭的価値で直接的なやりとりをしない、例えば親切な行動が、思わぬ良い結果をもたらしている、ということです。
「①企業を中心とした経済活動、②地域社会の安定、③国民の福祉・健康、④教育と⑤行政の効率はともに、社会関係資本の結果であると同時に、社会関係資本を築く要因でもある。」(第3章冒頭)と筆者は述べます。
「社会全般に対する信頼は計測できないという議論があるが、社会関係資本の研究では一般的に、『たいていの人は信頼できると思いますか、それとも、用心するに越したことはないと思いますか?』という問いを用いて社会全般への信頼(一般的信頼)を計測している。」「日本では統計数理研究所が五年ごとに実施している『国民性の研究』調査の中に含まれているし、国際的には『世界価値観調査(World Value Survey)』やアメリカの一般社会調査(General Social Survey : GSS)にも設定されている。」と述べています(第4章)
具体例も、海外の研究調査に加え、長野県須坂市の事例、男女・年代比較、銀行のOB・OGの追跡調査、など幅広く紹介されています。
須坂市の事例で興味深かったのは、「人に助けを求めること自体が勇気を要することであるという認識から、助けた人だけではなく助けられた人を表彰する『助けられ大賞』を授与している」でした。弱さを語ると責められたり、無視されたりする場所が増えているように思います。そうではなくて、誰かが弱さを語ってくれることにより、やさしさが満ちる空間になる。そんな仕組を入れていることに、やさしい気持ちになりました。
また、データから、中高年男性の孤立化からくる、無縁社会の到来への懸念を示しています。「木原によれば、女性はお茶飲み話を楽しむために集まることができるが、男性は何か目的がないと集まらないという。つまり、男性の社会参加には大義名分が必要だ」と記しています。半分冗談のようですが、半分本気で中年男性が茶飲み話で集まるスキルを養うことが、どこかで必要になりそうです。
第7章では、ソーシャル・キャピタルを破壊する格差問題について、経済の専門家からの批判にこたえようとしています。
ソーシャル・キャピタルの光の面のみならず、第8章では「ダークサイド」を紹介しています。確かに、強固な絆が、時に不正の温床や、陰湿な私的制裁に陥る面があります。
私は、絆の中に、お互いの人間性を尊重するという、心の在り方があるかないかで、光と影のどちらが際立つかの岐路になると思います。
第9章では、ソーシャル・キャピタルのはぐくみ方に触れています。
構造については、以下の本文中第4章に出てくる図5がわかりやすいです。
左側がインプットであり、右側がアウトプットになっています。
色々と刺激を受けました。
別日に、私の活動と、この本の関係について、書いてみたいと思います。
ソーシャル・キャピタル入門 - 孤立から絆へ (中公新書)
稲葉 陽二 著