家庭でクリティカル・シンキングを使うという禁じ手を犯そうとする猛者のために
- 「クリシン」できるものとできないものがある
- それでも「クリシン」をしたいのね・・・
- ならば、「影響の輪」に集中しよう
- 「ニーバーの祈り」を捧げてみよう
僕は、クリティカル・シンキング(略称「クリシン」)という科目の講師を務めている。もう何年もしている。
僕自身、クリシンを家庭で使うという禁じ手に幾度となく挑戦し、そして、痛い目を見ている。実体験に基づいて、何回もクラスで忠告するが、それでも、家庭でも使ってみたいという猛者がいる。クラスの中では、余り時間を割けない(だって、ビジネスで使う論理思考のクラスと謳っているので)ため、ここで、ちょっと書いてみたい。
■「クリシン」できるものとできないものがある
「クリシン」初心者向けの重要な注意点の一つは、家庭では使わないこと(笑)
なぜって、家庭でクリシンを使った瞬間に、問題解決をしているつもりが、火に油を注いで、ちょっとしたボヤを大火事になりかねないから。だからこそ、禁じ手。
ビジネスと家庭は大きく状況が違う;
不幸にして、いざこざの多くが―――正確に言えば、69%が―――「永続する問題」に入る。相談に来た夫婦たちを4年間追跡調査したところ、まったく同じ問題を4年間言い争っているのを、私たちは発見した。
(略)
心理学者のダン・ワイルは「配偶者を選んだ時、それは、とりも直さず、その後の十年いや五十年間、二人の間で解決できない問題と対決することでもある」と言っている。
『結婚生活を成功させる七つの原則』( )
解決しようとすることそのものが、やばいことがある。
近代国家間の「領土問題」に似ている。どちらも譲歩できない。そして戦争もしたくない。でも、喉に魚の骨がひっかかっているように気になる。政府もそうだし、国民もそうだし、魚の骨がきれいに抜けるのなら、気持よさそうでもある。ただ、骨を抜こうとすると苦労するし、骨を抜いたからめちゃくちゃ幸福度が上がるわけでもないし、ほっとくといつの間にか、喉にささっていることも忘れるものでもある。逆に、実際に、行動をすると、反作用が働いて、火に油を注ぎやけどをすることが多い。
だから、一番の堅実な対処法は「棚上げ」にしておく。横に置く勇気が必要。
家庭にも同じような「領土問題」が多い。
ドラッカーは、
間違った問いに対する正しい答えほど,危険とはいえないまでも役に立たないものはない。
なんて言っているけど、
間違った問いに対する正しい答えの方が、家庭では、かなり危険。
自分が正しいと思っているからこそ引けなくなるし、相手は全く違う次元で考えていて納得しない。強烈なカウンターアタックに見舞われる確率が高い。
■それでも「クリシン」をしたいのね・・・
難易度が高いからこそ、何かやってみたいし、「クリシン」を家庭でも使ってみたい、という猛者へ。そんな御仁、僕は、好きです。やりましょう。家庭内「クリシン」を敢えて使おうとする冒険者のために・・・;
家庭内に関わらずグロービスの「クリシン」の神髄は、どこにあるか?を思い出してほしい。
僕のクラスでは、何度も伝えているが、何に取り組むべきか(クラスでは、「イシュー」と呼ぶ)の設定。これを正しくすれば、家庭でも応用可能。
世の中では、MECE(もれなくだぶりなく)、whyを5回繰り返す「なぜなぜ思考」、フェルミ推定とか言われるけど、それは、ただの「技」。もちろん「技」が磨かれれば、問題解決が速くなったり効果的になったりするのだけど、それ以上に、重要なのは、正しく、イシュー設定をすること。
上述の「領土問題」をイシューに設定するのは下の下。イシュー設定をした瞬間に負けが確定するムリゲーになる。
■「影響の輪」に集中しよう
「影響の輪」というフレームワークを紹介したい。「影響の輪」とは、フランクリン・コヴィー『7つの習慣』に出てくる、「あなたが直接的、間接的に影響を及ぼすことができるもの」。
影響の輪に集中して「イシュー」を設定し、その解決をすることで、影響の輪が広がっていくと書かれている。本の中では、ワンマン社長の信頼を獲得していくできるビジネスパースンの事例が出ている。
では、僕が、実際に、家庭での影響力を高めようとした時に何をしたのか?『7つの習慣』に出てくるような、かっこいいビジネスパースンの話では無く、どちらかというと、地味なこと。具体的には、皿洗い、ゴミ捨て、風呂掃除、トイレ掃除。
え、想像と違う?でも、これが、一番効くんだよなぁ(笑)
もちろん、皿洗いどれだけスピーディーに、品質高くやるかに「クリシン」はバッチリ効果を発揮したけどね。
■「ニーバーの祈り」を捧げる
猛者であるがゆえに、イシューをもっと、華やかに設定したくなるんじゃないかな?僕も、でっかい夢を語るのが好きなので、よく理解できる。でも、正しいアプローチは、そうじゃない。
無様に、実をとることが大切。
会社のモノの見方は、万能ではない。与えられた仕事はすべて成し遂げなければならない、与えられた仕事をきちんとすればその後に良いことが起こる、というフィクションは、家庭でも人生でも成り立たないことがある。
実をとるために、この深い祈りの言葉が心に残っている。
神よ
変えることのできるものについて、
それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。
変えることのできないものについては、
それを受けいれるだけの冷静さを与えたまえ。
そして、
変えることのできるものと、変えることのできないものとを、識別する知恵を与えたまえ。
静かに祈り、自分の心に問いかける時間をつくる。
家庭で「クリシン」を使おうとする猛者には、ぜひ、深く静かな祈りの時間をとることをおすすめしたい。